【記事紹介】nhk 耐性菌の感染拡大防止を

 「耐性菌問題」のアクションプランが動き出した。欧米に追随する形だ。

<耐性菌の感染拡大防止を 政府が国民運動展開へ>

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161010/k10010724331000.html

政府は、会議を司令塔として、抗生物質の不要不急な投与や使用を控えるよう呼びかける啓発活動を行うほか、毎年11月を「対策推進月間」として、抗生物質の使用頻度を下げるための国民運動を展開する方針です。

風邪症候群に対して抗生物質を使う頻度を下げなければいけない。特に、耐性菌を生み出しやすい抗菌スペクロラムが広い薬だ。風邪症候群はウイルスが原因なので、理論上、抗生物質、抗菌薬は無効である。使うとすれば、免疫力が落ちている患者に対して、二次的に菌が(肺炎球菌など)原因となり肺炎となるのを予防する場合だ。

<薬剤耐性(AMR)対策について>

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html

のアクションプラン(2016-2020)資料を読むと、大変勉強になる。今回は「目標1 国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進する」の実践である。官僚の書く文章は面白い(笑)、いや勉強になる。

 医療の問題は、経済と密接に関わっている。耐性菌問題も類に漏れない。

<薬剤耐性菌のまん延で世界経済危機の恐れ 世界銀行

http://www.afpbb.com/articles/-/3101461

<抗菌薬への耐性は増加傾向にあり、今後、多くの感染症が再び治療不可能となり、生活困窮者が増えて各国は多大な代償を払う事態に陥ると予想されている。この問題に関する最近の調査結果の予測では、2050年までの世界全体の経済的損失は100兆ドル(約1京円)に上る。

 世界銀行グループは2017年から2050年までを予測した最新の報告書を発表し、世界で最も貧しい人々と国々が最も大きな打撃を受ける可能性があると指摘している。

 この報告書によると、スーパーバグのまん延によって、2050年までに極貧状態に陥る恐れがあるのは最大で2800万人。その大半は開発途上国の人々だ。

 報告書は「世界は現在、1日1.9ドル(約190円)で暮らす極貧層を2030年までになくす方向におおむね向かっており、極貧層の人々の割合を3%未満に抑えるという目標に近づきつつある」ものの、「抗菌薬耐性により、この目標は達成不可能となる危険性がある」と指摘。さらに、低所得国は2050年までに国内総生産GDP)の5%以上を失う恐れがあると述べている。

 また、世界の輸出量は2050年までに最大3.8%縮小し、家畜の生産は年間2.6~7.5%減少すると予測している。一方で世界の医療費は2050年まで1年につき3000億ドルから1兆ドル(約30兆円から約100兆円)程度増える可能性があるとしている。>

 

参考までに)「極度の貧困」7億6千万人 世銀推計、13年時点 :日本経済新聞

【記事紹介】仕事中毒になっている? 大人のADHDとの関係

<仕事中毒になっている? 大人のADHDとの関係>

CNN.co.jp : 仕事中毒になっている? 大人のADHDとの関係 - (1/3)

<大人でも仕事があまりに大変だと感じる場合にはADHDの恐れがあるという。自身の弱点を補うために週末や夜遅くまで働いている可能性があるほか、オフィスが静かな時間帯に働くのを好む例もあるようだ。

今回の研究ではワーカホリックと強迫性障害(OCD)の関連も判明。ワーカホリックと分類される人の約4分の1はOCDの診断基準を満たしていることが明らかになった。

不安感やうつ病との関連も指摘されている。ワーカホリックの人の約3分の1が不安にさいなまれる経験をしているほか、その8.9%はうつ病の診断基準を満たしている。>

<アンドレアッセン氏は、「ADHDは子どもに特有のもので成長と同時に解消されると考えられてきたため、大人のADHDに関する知識は少なかった」と指摘する。>

ある個性を社会に適応させているだけとも言える。しかし、苦痛に感じている状態の人に診断をつけて、それを軽減させることは必要なことである。特に、今回の調査(ノルウェーの一部での調査であるので他国にも言えるかは不明だが)で不安感やうつ病との関連が指摘されたのは有意義である。教科書にも出ていた。『標準精神医学』第6版(医学書院)ADHDの経過、予後を引く。

<多動は早くて2、3歳からみられるが、顕著になるのは4、5歳から小学校低学年である。多動は発達に伴い思春期には改善することが多い。だが、不注意は成人後も残存することが多い。成人の場合、不安や抑うつを主訴に受診した例に、隠れたADHDがあることがあり、それに気づき治療することが精神症状全体を改善するために必要で、成人患者でも生育歴を把握することの重要性が指摘されている。成人例でもまずは環境調整的対応が重要であることは言うまでもない。>

今週のNatureコラムNew Features: Can we open the black box of AI?

 新聞でも雑誌でもひっきりなしに話題になっているArtificial Intelligenceである。これについての簡単な記事が今週のNatureのNew Featuresのコラムにあったので、紹介する。Deep learningをどう考え、どう扱っていくかが焦点になっている。Deep learningとは、ビッグデータを使ってAI自身がネットワークを構築する技術である。これは今、広告や自動運転の技術として商業的に応用されている。そして、科学にも応用されている。

<Can we open the black box of AI?>

http://www.nature.com/polopoly_fs/1.20731!/menu/main/topColumns/topLeftColumn/pdf/538020a.pdf

科学に応用されたときの考察を紹介する。

<Eventually, some researchers believe, computers equipped with deep learning may even display imagination and creativity. “You would just throw data at this machine, and it would come back with the laws of nature,” says Jean-Roch Vlimant, a physicist at the California Institute of Technology in Pasadena.

But such advances would make the black-box problem all the more acute. Exactly how is the machine finding those worthwhile signals, for example? And how can anyone be sure that it’s right? How far should people be willing to trust deep learning? “I think we are definitely losing ground to these algorithms,” says roboticist Hod Lipson at Columbia University in New York City. He compares the situation to meeting an intelligent alien species whose eyes have receptors not just for the primary colours red, green and blue, but also for a fourth colour. It would be very difficult for humans to understand how the alien sees the world, and for the alien to explain it to us, he says. Computers will have similar difficulties explaining things to us, he says. “At some point, it’s like explaining Shakespeare to a dog.”>

提起されたのが、ブラック・ボックス問題である。次に、それが持っている危険性の考察を引用する。

<To scientists who have to deal with big data in their respective disciplines, this makes deep learning a tool to be used with caution. To see why, says Andrea Vedaldi, a computer scientist at the University of Oxford, UK, imagine that in the near future, a deep-learning neural network is trained using old mammograms that have been labelled according to which women went on to develop breast cancer. After this training, says Vedaldi, the tissue of an apparently healthy woman could already ‘look’ cancerous to the machine. “The neural network could have implicitly learned to recognize markers — features that we don’t know about, but that are predictive of cancer,” he says.

But if the machine could not explain how it knew, says Vedaldi, it would present physicians and their patients with serious dilemmas. It’s difficult enough for a woman to choose a preventive mastectomy because she has a genetic variant known to substantially up the risk of cancer. But it could be even harder to make that choice without even knowing what the risk factor is — even if the machine making the recommendation happened to be very accurate in its predictions.

“The problem is that the knowledge gets baked into the network, rather than into us,” says Michael Tyka, a biophysicist and programmer at Google in Seattle, Washing-
ton. “Have we really understood anything? Not really — the network has.”>

ブラック・ボックス問題を解決するような研究はいくつかあるそうだ。しかし、まだまだ解決には遠い。そもそも、人間の脳のニューラル・ネットワークを模したのがAIであるが、我々の脳がブラックボックスの性質を持っている。だから、それを「信頼」しなくては脳もAIも使えないだろう、と最後に締めくくられる。

<Despite these fears, computer scientists contend that efforts at creating transparent AI should be seen as complementary to deep learning, not as a replacement. Some of the transparent techniques may work well on problems that are already described as a set of abstract facts, they say, but are not as good at perception — the process of extracting facts from raw data.

Ultimately, these researchers argue, the complex answers given by machine learning have to be part of science’s toolkit because the real world is complex: for phenomena such as the weather or the stock mar- ket, a reductionist, synthetic description might not even exist. “There are things we cannot verbalize,” says Stéphane Mallat, an applied math- ematician at the École Polytechnique in Paris. “When you ask a medical doctor why he diagnosed this or this, he’s going to give you some reasons,” he says. “But how come it takes 20 years to make a good doctor? Because the information is just not in books.”

To Baldi, scientists should embrace deep learning without being “too anal” about the black box. After all, they all carry a black box in their heads. “You use your brain all the time; you trust your brain all the time; and you have no idea how your brain works.” ■>

AIの問題点は詳しく理解できたが、結局「信頼」せよとは期待はずれの結論であった。 ニクラス・ルーマン『信頼』で論じられた社会のなかに、AIも入れよと言うのか。科学者に言う。それではAIを作っておいて、余りにも無責任ではないか。

論文紹介:「Observational learning computations in neurons of the human anterior cingulate cortex」

 natureasia.comの2016年9月3日から10月3日までに最も読まれた記事ナンバー2が脳科学の記事であったので、紹介する。2016.09.07の論文である。

<Neuroscience: How humans learn by observing>

http://www.nature.com/articles/ncomms12722

 彼らは、社会性と報酬系に関わる脳領域のうち、扁桃体(AMY)、吻則内側前頭前皮質(rmPFC)、吻側前帯状皮質(rACC)に着目した。この研究では、カードゲームを自身で経験する場合と他者のそれを観察する場合で実験し、後者に最も強く関与するのは吻側前帯状皮質であることを発見した。著者は三人で、自然科学系、社会科学系、脳外科医であり、これらの複合分野に今回の成果がある。霊長類の脳の回路、特にreward prediction error(PE)はAI(artificial intelligence)のアルゴリズムに応用されてきたため、その分野への貢献もあるかもしれない。

 今回の内容の要約は以下のようである。

<Learning through observation plays a crucial role in human development, everyday life, and society. We designed a task to measure observational learning computations in single neurons in humans. The recorded data allowed us to show that the activity in a subpopulation of peri-genual ACC neurons located primarily in the gyrus encodes observational predictions and PEs, consistent with formal learning theory and in particular temporal difference learning algorithms, but heretofore never demonstrated empirically in any species. These findings establish for the first time in humans, a direct relationship between computation in individual neurons and its function at the level of behaviour.>

 論文のfigureを理解するときには、reward PE、報酬予測誤差を理解していなければいけない。詳しくは論文のMethodsに書かれているが、基本は下のURLを参照されたい。

http://www.scholarpedia.org/article/Reward_signals#Reward_prediction_error

 今回の研究により、観察による学習(カードゲームではあるが、この方法がnovelらしい。)に最も強く関与している脳領域が同定された。これはヒトの学問の中枢の発見につながると考えられる。「観察」は「学問」の一部であるからだ。というのも、「学」は元々「學」と書き、親鳥の羽の下で子が飛ぶ真似をしていることを表している。真似ぶにはよく観察することが必要だ。学問にはこれに「問う」行為が加わるので、「問う」中枢が発見されれば、学問と脳の関係の本質が解明されAIのさらなる発展が期待される。

誰が、どういう理由で。

誰が、どういう理由で引き起こし、放置していたのか。

<化血研、国の承認外でのワクチン製造が新たに判明>

http://www.asahi.com/articles/ASJB4734BJB4UBQU01J.html

化学及(および)血清療法研究所(化血研熊本市)が国の承認と一部異なる方法で日本脳炎ワクチンを製造していたとして、厚生労働省は4日、経緯を調査して結果を報告するよう化血研に命じた。9月の抜き打ちの立ち入り調査で確認した。弁明書の提出を受け、業務改善命令を出す方針。品質や安全性に問題はないという。

化血研は約40年にわたり血液製剤を不正製造、組織的な隠蔽(いんぺい)をし、過去最長の110日の業務停止命令を今年1月に受けたばかり。

 厚労省によると、今年8月、化血研から日本脳炎ワクチンの製造で軽微な齟齬(そご)があると報告があり、調べたところ、承認書と違い、一部でウイルスを不活化していない原料を使っていたことを確認したという。>

1月の業務停止命令が出た時点で、これは異常だと誰も思わなかったのだろうか。安全性は問題はないというが、ではどうして承認書に書かれた製造工程を守らなかったのか。もしくは、国に承認された以外のプロトコールに従わなければいけないことは、過剰な規制なのか。今回の発覚は化血研側からの指摘で見つかったらしいので、内部での危機意識はあったのかもしれない。

分野は違うが、奥底でつながるものがあると感じる。

<「メルトダウン隠蔽」は東電にとどまらぬ日本の組織の意思決定に関係 うやむやを生む忖度文化>

http://www.sankei.com/column/news/161004/clm1610040007-n1.html

「空気」は、故山本七平氏が日本社会をとらえるキーワードとして指摘したものだ。論理による判断というより「空気がゆるさない」という雰囲気による判断が優先することである。たしかに、日本の組織成員はまわりの空気を読むことが必須条件である。空気を読まない者はKYとして浮いてしまう。このような「空気の拘束」は、他者の意向を察して、気遣いする日本人の美質からきているが、それが強い組織文化となると「うちの会社ではそんな話を持ち出せる空気じゃありませんよ」と弊害を及ぼすことにもなる。

以前発覚した約40年続く(法律的)不正を抱えていた組織である。何らかの隠蔽の「空気」があっただろう。すると、今回の日本脳炎ウイルスの事件が自発的に発見したことは、「空気の拘束」を脱することができた人間が存在したことを意味する。

尻切れトンボのような検証委員会の報告書は、深追いしないという日本人のある意味の美質によるのかもしれない。しかし、察する文化が空気による支配になるように、深追いしないことによって無責任の体制は続く。

厚労省、第三者機関に化血研の意思決定システム、承認以外の製造工程を続ける理由を徹底的に究明していただきたい。